「森友問題」無いはずの交渉記録が出てきた理由―公文書管理の視点から

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架空小説「仮名手本森友学園」

2018年1月20日の毎日新聞のスクープ記事。

毎日新聞、”近畿財務局 森友交渉の文書開示 内部で検討の詳細な記録”、2018年1月20日 07時00分(最終更新 1月20日 07時00分)。
https://mainichi.jp/articles/20180120/k00/00m/040/188000c
(参照2018-01-30)

この記事をきっかけに、財務省の役人が「廃棄した」と言っていた「森友学園との交渉過程がわかる記録」が、存在していたことが明らかになった。この点について、財務省の役人は、「廃棄した」と言った過去の答弁について、様々なつじつま合わせの答弁を行い、整合性は取れている、としている。

もっともらしいことを言っているように見えるが、騙されてはいけない。

役人にはシンプルに「分かるように説明しろ」と要求すればいい。理屈が通っているのなら、丁寧にわかるように説明することは可能だからだ。

分かりやすいように説明する責任は役人にあり、それができない場合は(処分も含めて)指導するのは行政府の大臣にある。

ところが、現時点では、両者に、その能力がないようなので、代わって私が説明を試みたい。

1.公文書管理の本質

公文書等の管理に関する法律 (抜粋)

第四条 行政機関の職員は、第一条の目的の達成に資するため、当該行政機関における経緯も含めた意思決定に至る過程並びに当該行政機関の事務及び事業の実績を合理的に跡付け、又は検証することができるよう、処理に係る事案が軽微なものである場合を除き、次に掲げる事項その他の事項について、文書を作成しなければならない。

電子政府の総合窓口e-Gov、”公文書等の管理に関する法律(平成二十一年法律第六十六号)”、最終更新: 平成二十八年十一月二十八日公布(平成二十八年法律第八十九号)改正。施行日: 平成二十九年四月一日。http://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=421AC0000000066
(参照2018-02-04)

国有地払い下げによる汚職に注目されがちだが、それ以前に、

経緯を再現できない記録しか残していない時点で、公文書管理法違反であり、重い背任行為である。

財務省の役人がないと言っている記録は、「処理に係る事案が軽微なもの」と勝手に決めつけて、行政文書にしなかったものである。

会計検査院報告で、「会計経理の妥当性について検証を十分に行えない状況となっていた」と指摘されている以上、この判断が誤っていたのであり、

記録を残さなかった担当者とその上司の管理責任、さらに文書管理の責任者が、文字通り責任を取らなければならない。

会計検査院、国会からの検査要請事項に関する報告(平成29年)、”学校法人森友学園に対する国有地の売却等に関する会計検査の結果について”、
平成29年11月22日報告。http://www.jbaudit.go.jp/pr/kensa/result/29/pdf/291122_zenbun_1.pdf
(参照2018-02-27)

2.行政文書の登録作業

また、「保存期間が1年未満のため廃棄した」というのも、もっともらしく聞こえるが、ここにも言い逃れのカラクリがある。

ここで注意しておきたいのは、保存期間1年未満で廃棄したとされる「交渉記録」は、実は行政文書として登録自体されていない、ということだ。

どういうことかと言うと、行政文書の登録は、基本的には年度ごとに行われる。

例えば、平成29年度中に作成された文書は、平成30年度4月1日時点ではまだ行政文書として登録されていない。

平成30年度になってから、前年度の文書の登録作業を始めるのである。

省庁にもよるが、

  • 担当職員による登録文書のファイリング
  • 文書管理者による行政文書の登録作業(ファイル名の登録と管理タグ付け)
  • これに並行して、保存期間を迎えた文書の延長・移管判断と廃棄作業

といった作業を1年かけて行っている。

こういった作業を通じて、行政文書は登録される。

3.保存期間1年未満の文書は行政文書ですらない!?

前年度の行政文書の登録作業を1年かけて行われることが分かれば、1年未満の保存期間の文書を登録する必要がないのは理屈上は当然だろう。登録した時点で廃棄時期が過ぎているからだ。

したがって、1年未満の文書は、行政文書としてすら登録されずに廃棄されるのである。

このことが分かれば、

「保存期間が1年未満のため廃棄した」

の発言は、罪の重いことが分かるだろう。行政文書として必要な文書を、勝手な判断で登録すらせずに破棄したことになるからだ。

誤解をする人がいるかもしれないが、行政文書は、メモ1枚1枚発生するごとにファイル名を付けて分けて行うわけではない。実際には、ある程度、個別の案件に分け、まとめてファイリングして1冊にしてから、登録する。

したがって、交渉記録も行政文書として登録した文書に付けて登録していれば何の問題もなかった。

少なくとも、廃棄するのなら、あとで内容を再現できるような報告書を作っておく必要があった。

そのいずれも欠いた担当者の責任は重く、その管理責任をおざなりにしている行政責任者の責任は重大である。

4.なぜ相談記録はあったのか

公文書管理法の精神に基づき、行政の各機関では

行政文書管理規則

が設けられている。

例えば、財務省は次の通りだ。

財務省、トップページ>各種手続>情報公開等>情報公開>文書管理規則、”財務省行政文書管理規則(本文)”、
http://www.mof.go.jp/procedure/disclosure_etc/disclosure/kanrikisoku/bkanri20150401.pdf
(参照2018-02-27)

文書管理者をおき、文書の管理・監査を負う責任を持つ。今回の件での、責任は免れない。

だが、その一方で、今回、相談記録から交渉記録が出てきたのは、公文書管理が機能していた証拠である。

これも誤解を生むかもしれないが、ある意味、「これは交渉記録ではない」というのは間違っていない。正確に言うと、「相談記録に交渉記録を再現できる情報の一部が残っていた」のである。

もちろん、財務省の言い分に対しては、

「本来残しておくべき記録を勝手に廃棄・隠蔽した上に、会計検査院から法的検討の経過を求められたのに隠しておいた文書を、一度無いと言った相手にもう一度請求されてようやく出して、そこに交渉経過が分かる記録が残っていることを責められて、どの口で交渉記録ではないというのか」

と、どやしつけてもいいくらいだ。

だが、法律相談を受けた部署が、文書をちゃんと保存しておいたのは、行政文書保存要領で決められた、「法律相談」(保存期間5年)を順守したからであり、この件で開示請求したグループの努力のおかげである。

5.まだある可能性

以上の経緯を見たところ、他にも文書はある可能性がある。外部からの指摘でないと見つけられなかった財務省の文書管理者はこれまでの責任を感じ、明らかにするべきだ。

まず財務省近畿財務局の担当者には、

  • 本当に破棄したのか、残っていないのか
  • 内外にかかわらず接触相手のリストを出せ

と言って、出てきた接触リストから、接触相手に記録が残っていないかを確認すべきだ。

また、部局で絞って調査しているため、漏れがある可能性が高い。

ずっと気になっているのが、財務省は近畿財務局内は調べているが、本省のやり取りの記録を調べた様子がない。具体的には、田村室長と首相夫人付きとの相談記録だが、これも、室長が他部署に法律相談等をした記録は残っていないのだろうか疑問だ。

また、迫田局長(当時)が、国会で、2015年9月3日に総理に報告に行った案件を「日本郵政グループ三社の株式の上場」と答弁しているが、それを証明する文書も残っていないのか疑問である。

国会議事録検索システム、”第193回国会参議院予算委員会議録 第16号”、平成29年03月24日開会。
http://kokkai.ndl.go.jp/SENTAKU/sangiin/193/0014/19303240014016.pdf
(参照2018-02-27)

まだ文書はあると考えていいだろう。

「もうない」と言っている行政は信用に値しない。

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